大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

松江家庭裁判所 昭和39年(少)2905号 決定

少年 O・T(昭二四・一・二八生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

第一非行事実

少年は

一、A少年と共謀の上

(一)  昭和三九年二月二一日島根県立○○高等学校で実施される国立○○高等工業専門学校入学試験の入試問題を窃取する目的で、

(イ) 同年二月○○日午前二時頃、浜田市○○町××××県立○○高等学校本館事務室北側窓ガラスをとりはずして本館事務室内に侵入し、

(ロ) 同月△△日午前三時頃、前同所から同校本館教務室内に侵入し、

(二)  島根県立高等学校入学試験問題を窃取しようと企て、同年三月○○日午前六時頃同市○○××島根県立○○水産高等学校校長室において、同室備付けの保管庫を壊して右問題用紙を探したが発見できなかつたため咄嗟に同校舎を焼燬して右犯跡をなくすことを思いたち、同保管庫から取りだした用紙に附近に置いてあつた卓上ライターで点火したが、同校警備員が発見して消火したために、同学校長の机、椅子、衝立の一部を燻焼したにとまり、所期の目的を遂げるに至らず、

(三)  同年五月○○日午前二時過頃、前記県立○○高校において同月二五日行われた国語試験の答案を書きかえる目的で同校二階国語教官室に侵入し、自己の答案を探したが発見できなかつたため、咄嗟に同所にあつた同校三年六組の国語答案用紙約一六五枚を持ち出し、同校女子便所において、所携のマッチをもつてこれに点火し焼き捨て、もつて公務所の用に供する文書を毀棄し、

(四)  金員強取の目的で同年八月○○日午前二時三〇分頃、浜田市○町株式会社“○る○ち”ストア事務室内に侵入し、同所において、宿直員の同社社員○木○道(当時三一年)に所携の庖丁を突きつけ、更に同人の両手足を縛り、その反抗を抑圧したうえ、同事務所内を物色し、同所備付けのキャビネット内より同社社長○原○久管理にかかる現金一五九万九、〇一七円及び小切手二枚(額面合計一万二、八五七円)を強取し、

二、公安委員会の運転免許を受けないで、同年九月○日午後四時頃、同市○町××××○林○一方前路上において第二種原動機付自転車を運転し

たものである。

第二罪名及び罰条

一、の(一)の(イ)及び(ロ)の事実は住居侵入 刑法第一三〇条、罰金等臨時措置法第三条第一項第一号、刑法第六〇条

一、の(二)の事実は現在建物放火未遂 刑法第一〇八条、第一一二条、第六〇条

一、の(三)の事実は住居侵入、公文書毀棄 刑法第一三〇条、罰金等臨時措置法第三条第一項第一号、刑法第二五八条、第六〇条

一、の(四)の事実は住居侵入、強盗 刑法第一三〇条、罰金等臨時措置法第三条第一項第一号、刑法第二三六条第一項、第六〇条

二、の事実は道路交通法違反(無免許) 同法第六四条、第一一八条第一項第一号

第三要保護性

(一)  少年の素質のうち知能は(IQ-一二二)平均知能に属し可成優れており、中学及び高等学校一年在学中を通じて学業成績は上の部であつた。しかし、性格的に思考が自己中心的で体裁や見栄が強くて他を顧みる余裕がなく、人間正邪の判断をなす能力が著しく欠けている。本件非行がこの性格偏倚に基因していることは、その動機が当初において工専入試または高校入試において、自己が優に合格圏内にあるのに、よりよい成績で合格しようとした点にあり、これを発端として、その後は順次大担となり、社会を甘くみてスリルに溺れてなされた点等からも窺うことができ、少年に対する処遇につき最も重視すべき点である。

(二)  一方少年の家庭は、両親共に教育的関心が強く、また経済的にも恵まれているが、しかし、両親及び家庭全体の少年に対する出世欲を煽るような誤てる期待が大きく地味な社会道義に関する指導は忘却されていたため、少年に心理的負担がかかると同時に甘かす結果となり、これが少年の性格偏倚形成の一助となつていることも看過できない。

(三)  ところで、本件非行の発覚後、両親共に前記態度を反省しているが、少年の性格偏倚の程度及び非行事件の重大性からして非行歴のない少年にとつては誠に残念ではあるが、在宅保護は適当でなくこの際、少年院に収容し厳格な規律ある生活を介し性格の矯正をなすと同時に少年自身に充分なる反省と自覚をなす機会を与えるのが、少年の将来のために必要と思料する。

(四)  なお、少年は本件非行の発覚後、警察、鑑別所等において係官に対し、多少不遜な態度をとつているが、これは自己の非行の重大性を知り一時的に自暴自棄となつてとつた態度と認められるので重視するに価しないし、また少年自身いまだに勉学に対する熱意を失つていないので、少年院退院後の進学の点を特に考慮して、一部関係庁の処遇意見のように少年を特別少年院送致することには賛同できず、中等少年院を撰択する。

よつて、少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 山口和男)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例